現在、ニューヨークで国連総会一般討論演説が進行中です。
イラン大統領のアフマディネジャドが演説を行い、次の日パレスチナ自治政府のアッバス議長が演説を行いましたが、ネタニヤフ首相がその同日、23日に行いました。
全文と動画(イスラエル外務省サイト内)
彼の政治人生において、また現イスラエル国にとっても最も重要な演説の一つだったことでしょう。彼は、かつてイスラエルの国連大使を務めたことがあり、それゆえに重層感のある主張と反駁を展開させています。重要な点を列挙します。
・ イザヤ書9章から「死の陰の地に住んでいた者たちの上に光が照った。」を引用し、「この光が和平の光となるようにしよう。」と呼びかけた。(メシヤ到来の有名な聖句です。)
・ イスラエルは、ユダヤの民にとって「古の聖書的郷土」であることを説明。
・ パレスチナ人との和平を達成する方法を説明。
・ 遅すぎないうちに、イランの核兵器取得を阻止することを促す。
・ 国連は、平和と安全のために尊厳をもって働く、優れた外交官がその中に多くいる一方で、極めて頻繁に「嘘の家」であり「愚の劇場」である。
鍵となる引用
・ 私は今、いささか数分であろうとも、我が国にとって長いこと暗黒の場であった会場に真実の光が輝くことを願っています。ですから、私はイスラエルの首相として、拍手喝采を得るためにここに来たのではありません。真実を語るためにここに来ました。真実とは、イスラエルが平和を望んでいるということです。真実は、私が平和を望んでいるということです。真実は、中東においては常に、特にこの騒然とした時に、平和を安全保障という錨でしっかりつなぎ留めておかねばならない、ということです。真実とは、和平が国連決議を通じて達成できるものではなく、当事者間の直接交渉によってのみ達成できるということです。真実は、これまでのところパレスチナの人々が、交渉を拒否してきたということです。真実は、イスラエルはパレスチナ国と和平を得たいと思っているが、パレスチナは和平なしの国家を欲しているということです。そして真実は、あなた方はそのことを放置してはならない、ということです。
・ まさにここ(国連)で1975年に、長い歳月を経た我が民の熱望が、古の聖書的郷土における民族的生活を回復させたいという切望が、その年に、恥ずかしくも人種主義という烙印を押されました。そして1980年、まさにここで、歴史に残るイスラエル・エジプト平和条約が称賛されるのではなく、弾劾されたのです!ここでイスラエルだけが、何年も、不正に非難の標的にされました。世界の他の諸国を全て合わせても、イスラエルが最も非難を受けているのです。二十七の国連総会非難決議のうち、二十一が、中東で唯一の民主主義国であるイスラエルに対するものです。
・ これは愚の劇場であります。イスラエルが悪党に仕立てあげているのみならず、本当の悪党を指導的な役目として、しばしば仕立てあげています。リビアのカダフィが、国連人権委員会の議長を務めました。サダム政権下のイラクが、国連軍縮委員会の長だったのです。「それは過去のことだ」とおっしゃるかもしれません。そうでしょうか、今、たった今、これが起こっているのです。ヒズボラの支配下にあるレバノンが、今、国連安保理の議長になっています。つまりは、テロ組織が、世界の安全保障を担保するよう任じられている組織の座を占めているのです。こんなことを作り上げることは到底できません。
・ 東西間に今、その全ての平和を脅かす憎悪が増えてきています。これは、解放するのではなく虐げることを求め、建て上げるのではなく、破壊することを目的にしています。その憎悪とは戦闘的イスラム教です。これは、偉大な信仰という衣を着て見せてつけているけれども、ユダヤ人、クリスチャン、ムスリムを見境なく、赦しがたい偏見でもって殺害しています。9月11日に、何千人ものアメリカ人を殺しました。あのツインタワーを、煙がくすぶる廃墟とせしめました。昨夜、九・十一の記念碑に花輪を残しました。心が動かされました。けれども、そこに行くにあたり、私の思いには一つのことが響き渡っていました。この演説台から発せられた、イラン大統領による悪逆無道な言葉です。彼は、九・十一をアメリカの陰謀だとほのめかしました。あなた方のうち何人かはこの会場から出てゆきました。全員が出て行くべきだったのです。
・ 国際社会は、遅すぎないうちにイランを止めさせなければいけません。イランを阻止できなければ、私たちは皆、核テロリズムを目撃することを余儀なくされるでしょう。そして「アラブの春」はたちまち「イランの冬」になるでしょう。イスラエルを取り巻く世界は、さらに危なくなっています。戦闘的イスラムは既にレバノンとガザを乗っ取りました。そして、イスラエルとエジプト間の平和条約と、イスラエル・ヨルダン間の平和条約を引き裂くことを決意しています。多くのアラブ人の思いに、ユダヤ人、イスラエル、アメリカ、西欧に対する憎悪を吹き付けました。それは、イスラエルの政策に反対しているのではなく、イスラエルの存在そのものに反対しているのです。
・ イスラエルは2000年、パレスチナの要求をほとんど全て呑んだ、破格の和平の申し出を行いました。アラファトは拒否しました。それからパレスチナ人は、千人のイスラエル人の命を取ったテロ攻撃を開始しました。オルメルト首相はその後2008年、さらには破格の申し出をしました。私たちは領土を実際に手放したのです。アッバス大統領は反応さえ示さなかったのです。しかし、イスラエルはさらに破格の申し出をしました。2000年にレバノンから撤退し、2005年にガザからは一平方インチも主張することなく、全域から撤退したのです。これでイスラムの嵐、私たちを脅かすイスラムの嵐は静まることはなかったのです。このことによって、その嵐はますます接近し、強大になってきたのです。
・ イスラエルのユダヤ人国家は、少数民族の権利を常に守ります。そこには、イスラエル国籍を持つ百万人以上のアラブ人が含まれています。私は、同じことをパレスチナ国家に言えればよかったのに、と思います。なぜなら、パレスチナの役人は先日、― 実は彼らはここニューヨークにやってきていますが、― パレスチナ国家にはただ一人のユダヤ人も受け入れないと言ったのです。つまり、ユダヤ人追放、ユダヤ人フリーだというのです。これこそ民族浄化です。今日、ラマラ(訳注:自治政府の首都)には、ユダヤ人に土地を売却するならば死罪に値するという法律があります。これこそ人種差別です。この法律が何を想起させるかはお分かりでしょう(訳注:ナチスの定めた法律のことです)。
・ アラブ人の古くからある諺で、「片手で拍手喝采することはできない」というものがあります。和平でも、同じことが言えます。私は独りで平和を造ることはできません。アッバス大統領、私は私の手を差し出します、イスラエルの和平の手を差し出します。あなたがこの手を握ってほしいと願います。私たちはどちらもアブラハムの子なのです。我が民は、彼をAvrahamと呼びます。あなたの民は彼をIbrahimと呼びます。同じ族長を持っているのです。同じ土地に住んでいるのです。私たちの運命は織り交ぜられているのです。イザヤの幻を実現しましょう、「死の陰の地に住んでいた者たちの上に光が照った。」
(参照記事: NETANYAHU COMES TO U.N. TO SPEAK THE TRUTH: ISRAEL WANTS PEACE, BUT THE U.N. IS THE “THEATER OF THE ABSURD”)
【補足】
イラン大統領、アフマディネジャドによる国連演説全文を私は読みましたが、実に酷いものでした。 次は演説の要約ですが、日本語のイラン・ラジオの記事で読むことができます。 → 国連総会でのイラン大統領の演説
彼は、イスラムの終末である「マーディが、イエス・キリストとともに再来する」と言っていますが、その他は世界に流布している反米主義を寄せ集め、翻案しているだけです。世界の不平等と暴力の全てを、欧米ことに米国が引き起こしたものとする極左思想を取り入れ、「ホロコースト」の捏造、「シオニズム」の悪魔化などの陰謀論もたくさん取り入れています。九・十一もアメリカの陰謀であるとほのめかしています。そして、「共同と集合の世界管理」という言葉を頻繁に使い、新世界秩序すなわち世界政府を強調しています。
まさに、聖書が終わりの日に起こると告げる、反キリストの台頭を体現するような発言です。
けれども、私が空恐ろしいと思ったのは、彼が取り寄せた流布している思想というのは、実は、世界の数多くの人々に断片的に受け入れられ、信じられているという事実です。イスラム過激主義が今、元々反イスラエル感情を抱いていたアラブ人やイスラム教徒に、イスラエルという存在に対する潜在的憎悪を注入していると同じように、私たちが漠然と抱いている反感や怒りを利用して、危険な思想を私たちの思いに毒のように注入しているのです。
アフマディネジャドには、欧米の帝国主義を非難する資格など微塵たりともありません。国内の改革派を武力で押さえ込み、十代の少女にさえ拷問を加えることを控えず、蹂躙の限りを尽くしています。そして核兵器開発を異常な速度に推進し、それをイスラムのマーディ到来のために、イスラエルとアメリカに使用することさえ明言しているのです。
そしてアッバス議長もイスラエルを非難する資格はありません。自治政府を批判する人々を逮捕するなど、国連総会演説にあった「アラブの春」から「パレスチナの春」などよく言えたものです。
真に苦しみを受けている「声なき声」を聞き取ることのできる人になりたいと願います。