映画「アメイジング・グレイス」

先ほど、この映画が3月5日に日本で上映されるという広告を見て驚きました。なぜなら、この映画は2006年のものであり、私はどこかで既にかなり前に見ていたからです。

公式サイト(日本語)

クリスチャンの方、またそうでない方もぜひご覧ください。これは英国の奴隷制度を廃止へと導いた政治家ウィリアム・ウィルバーフォースの物語です。

彼の奴隷制度廃止を突き動かした情熱は、彼の鮮明な回心体験によります。伝統的な英国国教会の背景の中で、彼は新生した福音的クリスチャンになりました。そして、元奴隷商人であったジョン・ニュートンとも交流を深め、彼の廃止論への確信を強めます。このニュートンこそ、あまりにも有名な聖歌「アメイジング・グレイス」の作者です(ジョン・ニュートンの伝記)。

聖書回帰運動・世界宣教・ユダヤ人パレスチナ帰還運動

そして、ウィルバーフォースのもう一つの側面をご紹介します。彼は世界宣教に熱心であり、ユダヤ人への宣教と彼らのパレスチナ帰郷運動に熱心であったことです。この話については、私が2010年イスラエル旅行でエルサレム旧市街にある「クライスト・チャーチ」でそこの所長の方から聞いた話に書いていますので、どうぞご一読ください。

http://www.logos-ministries.org/israel/israel+jordan05_26.html#7

これが私がしばしば話している、「ユダヤ・キリスト教価値観」のことです。その起源は、聖書を一般の人々が読むことができるようになった宗教改革から始まり、それによって聖書をそのまま受け止める人々が増え、ナポレオン等、当時の権力者がパレスチナへの関心を抱いていた時代の中で、時が満ち、英国に霊的復興が起こりました。世界の不安定化も相まって、聖書に記述されている世の終わりを自分自身のこととして捉え、全世界への宣教運動がその国で起こったのです。

聖書回帰運動は既存の制度に対しても影響を与え始め、奴隷廃止など、今の私たちが共有する近代的価値観が新生したキリスト者の間から起こされました。同時に、従来の迷信に基づく「キリスト殺し」を叫んだ中世ヨーロッパ・キリスト教の反ユダヤ主義から脱却していったのです。

それと共に、むしろユダヤ人を愛し、彼らの郷土帰還を後押しする人々が、英国そしてその後米国で聖書を読むキリスト者から興されていきました。政治家の中から、パレスチナのユダヤ人義勇兵と共に戦う英国将校から、様々な分野の人から積極的にシオン帰還を後押しするキリスト者が現れました。有名な人はもちろん「バルフォア宣言」のアーサー・バルフォア伯爵です。法学者ウィリアム・ブラックストンもおり、そしてシオニズムの父テオドール・ヘルツルの親友ウィリアム・ヘクラーです。

けれども、英国は次第にその動きから手を引きます。1939年の政府白書で、パレスチナに大量帰還するユダヤ人難民に制限を設け、こともあろうにナチスの最終計画が実行されているヨーロッパ本土に強制送還しました。アラブ人を宥めることによって、パレスチナにおける影響力を残すためです。

そして第二次世界大戦が終結すると、英国は影響力を残せるどころか委任統治を放棄し、結局、大英帝国の地位から凋落しました。その中で、イスラエル新生国家を支援したのが米国です。トルーマン大統領も、聖書に強い影響を受けており、ユダヤ人国家を認める国連分割決議案に対して、アラブ圏への国益を損じるとして激しく反対した国務省を押し切って、イスラエル独立宣言をいち早く認知しました。

今週LCFの学びは創世記12章に入りますが、「あなたを祝福する者は祝福され、呪う者は呪われる。」という神の言葉は、いわゆる「アメリカの宗教右翼」が使っている聖書箇所などでは決してなく、聖書そのものを読んでいく者たちによって歴史を通じ綿々と続いてきた価値観であり、それは「世界宣教」や、平等・人権・博愛主義などの「近代的価値観」と密接に連関しています(例:黒人公民権運動を指導したキング牧師は、「シオニズムを非難するとき、ユダヤ人を非難しているのだ」と言いました(手紙))。

こういった壮大な、英国近代史における神の摂理と御手を、本映画を鑑賞するとき感じ取られたらよいでしょう。

(参照資料:「イスラエルの情報」、Lovers of Zion: A Brief History of Christian ZionismBritish Support for Jewish NationAwakening in the Christian world in support of a Jewish Restoration 1830-1930