ヨムキプール戦争全史

次に紹介したい本は、今日ようやく読み終えたこれです。(区外図書館から取り寄せたものなので、延長も無理、2週間で何とか読み終えました。)

「ヨムキプール戦争全史」(アブラハム・ラビノビッチ著 並木書房)
(原書はこちらyomkippurwar

本当に感動しました。「現実は小説より奇なり」と言いますが、登場する人物を第一資料・インタビューなどから構成し、この戦争の記録を生々しくよみがえらせています。

イスラエル・アラブ紛争は、第一次(独立戦争)、第二次(シナイ作戦)、第三次(六日戦争)とあり、この「ヨムキプール戦争」は第四次中東戦争に当たります。六日戦争からのつながりでヨムキプール戦争を見ると、多くの教訓を学べます。

六日戦争において、イスラエルは、シナイ半島はもちろんのこと、ヨルダン川西岸地区、ゴラン高原もなく、ちょうどバナナの真ん中を右側からかじられたような形の領土しか持っていませんでした。そこからエジプト、ヨルダン、シリアの三正面から攻撃を受けるのです。アメリカからの支援も取り付けられず、イスラエルは絶対絶命の危機にさらされていました。けれどもイスラエル空軍のエジプトへの先制攻撃が、本人たちも驚愕する打撃をエジプトに与え、以後、圧勝から圧勝へ至りました。絶体絶命どころかイスラエルは、領土拡大にともなう圧倒的安全保障を確保しました。

この戦争に伴い、これまでシオニズム(=ユダヤ人の地にイスラエル国家を建てる考え)に正統派ユダヤ教徒は往々にして懐疑的だったのが、ここに神の御手を感じ、彼らの間に宗教的シオニズムが始まります。そして聖書を信じているクリスチャンの間でも、ますます預言がその通りになっていることを知り、神への信仰を強めることになります。

そしてヨムキプール戦争は、この奇跡的な勝利を、イスラエル人たち本人がどう解釈したのかを見ることができます。これを神によるものではなく、自分たちの戦力や戦略のおかげ、またアラブ軍の腰抜けであると解釈するのです。それで彼らは慢心し、迫り来る戦争の情報は数多く得ていたのに、それを読み取ることができなかった、という大きな教訓を見ることができます。

といっても、上層部の情報分析遅れによって、最初大きな打撃をイスラエルは受けますが、それで前線の兵士たちはものすごい士気を持ち、奮闘しています。そしてなぜ、シリア軍の戦車ががら空きのゴラン南部をさらに侵攻しなかったなど、謎の部分があり、やはり神の御手を感じざるを得ない奇跡もあります。

もしナルニア国物語に例えるなら、独立戦争・六日戦争が第一話なら、ヨムキプール戦争は第二話になるでしょう。

そして私は、エジプト大統領サダトの政治家としての凄さに感動しました。

結果的に、軍事上はイスラエルがシリアをゴラン高原から追い出し、さらに首都ダマスカスまで近づき、エジプトでもスエズ運河を渡河、カイロまでかなり近づきますが、心理上・政治上はサダトの勝利です。

サダトは、六日戦争で受けたアラブの屈辱を回復するという目的で、軍事的な勝利を初めから期待せず、戦争を始めているのです。アラブの民族主義をどう克服すればよいのか、彼はよく分かっていたのです。そして、前任のナセル大統領と違い、「ユダヤ人を地中海に沈める」というような威勢の良い好戦的態度ではなく、実際に用意周到な準備を数年に渡り行ないました。

そして、彼はソ連からアメリカに軸を移し、それによってイスラエルをアメリカを調停にさせることによって自分に引き寄せ、数年後、シナイ半島を戦争ではなく、外交的平和関係によって獲得したのです。

この戦争によって、アラブ諸国はもはやイスラエルに戦争をすることはなくなりました。国の首脳部は政治現実主義を採用するようになるのです。

聖書でも、エジプトについて、イザヤ、エレミヤ、エゼキエルが預言しましたが、いずれも弱体化していくことを描き、特にイザヤ書19章では、エジプトでイスラエルの神の名がたたえられることが書かれています。

けれどもこのサダトは、イスラム主義者によって暗殺されました。国としてはアラブはイスラエルへの歩み寄りを始めたのですが、民衆としては依然として許されないことなのです。

ですから、今度イスラエルは国との戦争ではなく、パレスチナ・ゲリラやその他のテロリスト組織との戦いに突入します。

この前説明しましたように、テロ組織はPLOなど社会革命主義的なものもありますが、イスラム主義によるものが今は大半です。これを国として興したのが1979年のイラン革命です。レバノンのヒズボラはイラン支援組織であり、ハマスに対しても支援しています。そしてイランそのものは、イスラエルへの核攻撃の準備を進めています。(ここにエゼキエル38章の「ペルシヤ」を見るのです。)

私たちは、このような歴史的見地から、今のイスラエルを取り囲む情勢を見なければならず、次に起こりうることを覚悟しなければなりません。

次の予告書評は、ジョエル・ローゼンバーグ氏の著作二冊です。
Epicenter 2.0: Why the Current Rumblings in the Middle East Will Change Your Future
Inside the Revolution: How the Followers of Jihad, Jefferson & Jesus Are Battling to Dominate