再び、イスラエルに関する書籍の紹介です。
「イスラエル全史 上」(マーティン・ギルバード著 朝日新聞出版)
「イスラエル全史 下」
(原著 – Israel: A History by Martin Gilbert)
原書は購入していたのですが、日本語訳が出ていることを発見し、すかさず図書館で借りて先ほど読破しました。
これまでここで紹介した中東戦争史に関連する書籍もすばらしいですが、これは戦争だけではなく他の分野にも入り込み、イスラエルの近現代史全体を網羅している、すばらしい本です。しかもイスラエル建国60周年を記念して、2008年出版時に2章分を補筆したらしく日本語訳にも入っています。19世紀から始まる、パレスチナ郷土へのユダヤ人帰還から現代の「イスラエルの今」を、一つの流れとして眺めることができます。私は、これまで読んだ数冊の本が一本の糸で束ねられた気分で、爽快です!
他の歴史でもそうですが(例えば日本の近代史など)、現在に近づけば近づくほど著者の政治的・思想的な視点がその著述に反映されます。私は、1983年以降から起こったインティファーダ(民衆蜂起)以後の話が著者の見方とは自分は異なると感じました。例えば、90年代のオスロ合意に反対するネタニヤフの動きがかなり否定的に描いていますが、私は「安全保障なしの平和協定はありえない」という彼の主張は当たり前のことであると思いました。けれども、イスラエル左派がどのような視点を持っているかその内部の目を、また著者はイギリス人ですが、イスラエルに同情的、けれどもリベラルな欧米人の見方を知ることができ、良かったです。
そして「イスラエルとパレスチナの二民族、二国家」というのは、内外のほぼすべての指導者、政治家らが描いている目標地点であり、その枠組みがどのように起こってきたのかを客観的に知るための資料として、非常に有益でした。
イスラエル人としては、67年の六日戦争で占領したヨルダン川西岸、ガザ地区、そしてゴラン高原をどのように統治するのか、本人たちのとまどいと葛藤の経路が今にまで続いていることが分かりました。地中海からヨルダン川までイスラエルであると言う右派と、それに同調するようになったユダヤ教正統派、それから、いやパレスチナ・アラブ人に引き渡さなければいけない(ゴラン高原はシリアに)、と考える、労働党、カディマ、その他の左派がいます。国際的な枠組みは後者ですから、右派の党首が首相になっても、このことを基準にして動き、話さなければいけません。
いずれにしても、あまりにも混沌としています。「エルサレムの平和のために祈れ」という詩篇にある神の命令を、思わずにはいられませんでした。
「イスラエル全史」への9件のフィードバック
コメントは停止中です。