以下は、二つの投稿記事「慰安婦問題」「『風俗』と男の尊厳」の続きです。
橋下氏の風俗発言に関連して、詳しく論評しているお薦めの記事が二つあります。
まずは、「小さな命を守る会」で長年主事であられ、性や命について、日本のサブカルチャーの視点から論じ、講演等をしておられる水谷潔さんの一連の記事があります。
「公益による弱者人権侵害の正当化」としての橋下市長慰安婦発言
「軍と性」、その基礎知識(1)・(2)・(3)
私は、一連の記事の中にある「綺麗事で済ませてはいけない」という言葉に感銘を受けています。イエス様が遊女や取税人と交わっているという非難を受けられましたが、このような問題を真正面から取り扱うことは、そのような誹りを受けかねません。
私も同意する言葉ですが「与党、政府関係者からの苦言も、歴史認識の問題としてではなく、女性の人権問題として、とらえているように観察します。」ということです。私も橋下発言、そして石原擁護は、後者のほうであるとすぐに察知して、これまでの慰安婦問題とは別にして、被害者となる女性はもちろんこと、(このことは、言い尽くされているので)盲点となっている加害者になりえる男性の尊厳を取り扱いました。実は、生涯の契約を結んだ、たった一人の女性に性欲を用いることこそが、男性が男性であることの悦びを得ることができる、という観点でした。
そして、慰安婦問題は世界のどこにでもある、というのは、その通りです。それを水谷氏は「軍と性」という記事の中で取り扱っています。米軍は実は、今回の橋下発言よりももっとエグイ、米兵用の非合法の風俗街が沖縄にあり、フィリピン人女性が働いているとのこと。そして、イラク戦争時には、イタリア軍は慰安婦を連れてきたこと。ドイツ軍はリーダが厳格で一切そのような行為を行わせなかったが、イギリス軍は精力減退の薬を飲ませた、という話は驚きです。これは第二次世界大戦中でなく、つい最近のこと、また今現在のことですから、かなり深刻に受け止めないといけないと思います。
自衛隊は?と言いますと、イラクへ派遣された時は、ポルノ雑誌さえ所持禁止だった、ということ。興味深いことに、かつての慰安婦利用を非難されている日本軍とドイツ軍が、今は他国よりも厳格に対応しているということになります。(両国とも失敗する時は本当にまずい形でへましますが、こういうところに生真面目だなと私は変に関心します。)
そして、もう一つの記事は現在進行中の、MGFの牧者カズさんのものです。
橋下徹氏の慰安婦・風俗発言はやはり失言、暴言、妄言、放言 一キリスト者の提言、直言 1-10/30、11-20/30、21-30/30
橋下氏や石原慎太郎氏は、私は、個人的には元々嫌いな政治家でした。どこかで人を蔑視しているという、何かを感じていました。(彼らの行なっている政策、また政治家としての具体的な発言や実績の全てを否定するものではありません。)それをカズさんによる記事は見事に抉り出しています。二人の性癖を暴露し、さらに性に対する姿勢はそのままその人間性につながるという大事な点を書いています。(1テモテ3:1‐5)
石原氏について、かつての石原軍団のような、男のモデルにさえなる強さにあこがれるようになるかもしれませんが、私はずっと単なる保守政治家とは違う、一種の”いやらしさ”を感じていました。この生理的嫌悪感は、彼の女性蔑視、障害者や弱者の蔑視にあります。この人のせいで、日本政治の健全化に必要な、革新と保守のバランスを成すための、健全な保守政治が歪められたと思っているぐらいです。
そして懸念していたのは、橋下氏の台頭でした。私は初めから変だな感じていましたが、フェイスブック等を見ていると、意外に若者に受け入れられている。政治にも感心を持たなければいけないと思っている姿はほほえましいのですが、見る目が無いと老婆心を抱いていました。彼もまた、みんな党のような保守改革派の動きとは違うのです。
つまり、どちらもそれぞれ小説家・芸人の域を超えておらず、他の職業政治家とは違います。でも、マスコミは彼らをもてはやす。この二人が波長が合うのは当たり前だろうとは思っていました。そして作られた維新ですが、もちろん維新の中にもすぐれた誠実な政治家はたくさんいると思います。でも、この二人をリーダーにしていることは、その将来が期待できません。
【補筆】慰安婦問題の難しさ
最後に歴史的な観点からの慰安婦の問題に関連して、私は少し懸念を抱いています。(次からの話は込み入った内容なので、興味のない方は読まなくても結構です。)それは、思い切り言いますと「日本キリスト教会の左翼化」という問題です。
ある牧師の投稿ですが、西岡力教授について「東京基督教大学が彼と袂を分かった方がいい」「安倍首相との政策的に、また個人的にもおそらく強い結びつきがあり、少なくとも、『福音派』のキリスト教系大学の教員としては相応しくない。慰安婦問題への認識は、大学の名誉に関わる問題ですらある。」という発言を見ました。
西岡氏の主張をまず誤解している。そして、その誤解に基づいて妻子を持つ一人の教授の進退を決める、しかも彼の学術的主張が自分の意見と異なるだけで「福音派」から追い出す。福音派とは聖書のみを最高権威にすることでは?この考えには、キリスト者の一致というものがない排斥発言だと思いました。
まず、今回の橋下大阪市長の発言は、安倍首相また政府見解と違うものです。だから初めから自民党は距離を取った。安倍首相は、慰安婦があったこと自体は激しい心の痛みと悲しみを持っていると表明している。首相官邸に韓国の雑誌編集長が単独取材して、安倍氏はこのことを繰り返し、強調しました。(記事)
お断りしますが、私は別に西岡氏の慰安婦についての見解に全て賛成するものではありません。むしろ、どちらの主張においても、どうしても日本軍、すなわち公権力の関与について完全に立証しているように思えない、という立場です。けれども、その主張の内容までを誤解、あるいは意図的に歪曲するのであれば、それは公正というルールから逸脱した行為であり、卑怯だということです。
西岡氏の主張の内容は、初めて慰安婦を名乗り上げた女性を取材するため韓国に赴いた当時のNHK記者の主張と同じですが、要は、「軍は関与していた。それは戦地において危険があるから管理しなければいけないというという枠組みでの関与だ。」ということ。関与していたということが、軍人が誘拐等をしたような強制連行ではない、ということです。(参照「慰安婦って何?」「NYTのための慰安婦入門」池田信夫)
けれども、反対側の意見は、「軍はかなり強く要請し、斡旋業者に女を連れてくるように指示している。」など、関与には強制力が働いていた、ということ。これもまた事実だったのでは?と私は勘ぐっています。(似たような提起をしている記事はこちら - 「慰安婦問題は常識論やで(ヨハネス山城)」)
けれども焦点は、このような学術的あるいは法的解釈の違いであり、これと信仰的なことは別問題。私の妻は、東アジア近代史の専攻で、日本近代史の論文で修士号を取っていますからこの分野に詳しいですが、歴史というのは「解釈」に過ぎず「事実」ではない、ということ。慰安婦問題についても私と同じで、どちら側の主張にも立っていません。
けれども恐いのは、キリスト教会に、こうした学術的議論の一方を信仰の名によってドグマ(教義)化し、他者を排斥することです。私たちは、実際に現代の東アジアにも関わっている者としてもこの動きに危惧しています。
「中国や韓国のことを考えていない」という左派の論調には、逆に、あまりにも中韓の現況を知らないで語っています。あまりにも国内向け、そして右派から「反日」と呼ばれても仕方が無い、ただ日本を叩くだけに中韓が利用されていると見えることが多々あります。
私は韓国や中国の兄弟姉妹を愛している。したがって、彼らの国で起こっている恥部や暗部は取り上げたくありませんが、でも厳然として、ある分野では日本よりたくさんあるのです。でも、話しません。そして韓国や中国の兄弟姉妹も、決して歴史問題のことを私にけしかけてくることはありません。これは礼儀だし、このことでキリストにある一致を壊していけないということを知っている。
けれども、日本のキリスト教会があまりにも、人間だれでも罪人という真理から逸脱して、あたかも日本だけが悪いという見方をしている。その反面、本当の、素肌の韓国人、中国人の兄弟姉妹に接していない。おそらく、こちらのほうに在日の韓国人、中国人の兄弟姉妹は淋しい思いをしていると思います。そして、こちらのほうが、もっと深刻な霊的問題だと思っています。
日本の今の動きは右傾化だけでなく、左派においても他者を排除するという、寛容のない空気が立ち込めています。これは、今の米国のリベラル、また日本のかつての学生運動にも起こったことで、排斥、(そして酷ければ)粛清の動きです。
最後に、慰安婦問題は、「性」という極私的な領域、そして「強制力」という、今の法廷でも解釈がこじれる内容でありますから、すぐに話しがもつれ、非常に難しいです。なので基本的に議論を避けたいのが本音です。
【追記】
水谷さんのブログに、こちらの記事をリンク、紹介してくださった記事が新たに掲載されました。
【追記2】
慰安婦問題について、ここまでの精密な議論を見たことがない、と言ったら良いほどの議論を見つけました。朴裕河(パク・ユハ)世宗大学の教授です。かつて日本の大学で博士号を取ってらっしゃるので、日本語が日本人のように綺麗です。このもつれた問題が、なぜもつれてしまったのか、それを論述しています。ぜひ読んでみてください。
韓国で慰安婦問題に関する新しい本を出しました。ちょうど先日日本で講演の機会があったとき、この問題をめぐる日本での議論に添って本の内容の一部をまとめたのでアップしておきます。
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