今回のガザ戦争において、キリスト教関係者から批判の声、そして親イスラエルのクリスチャンに対する批判の声を聞きました。このような人々の中にも、温度差がありますが、福音的な信仰を持っている代表的な人物を取り上げ、そこから、私の説明を提示したいと思います。
批判者:「不信仰のユダヤ人には相続の権利はない」
ジョン・パイパー(John Piper)という人です。彼は改革神学を持っている人です。彼は福音宣教に対して情熱を持った人で、聖書信仰を持っています。しかし改革神学の中では、イスラエルの地位はあくまでも「霊的イスラエル=教会」となっております。いわゆる「置換神学」です。そうした背景から彼の聖書的見解を読んでみたいと思います。
Israel, Gaza, ‘Divine Right,’ and John Piper
(イスラエル、ガザ、「神からの権利」、そしてジョン・パイパー)
1.神は、世界の諸民族から、ご自分の所有としてイスラエルを選ばれた。
2.土地は、アブラハムとその子孫に約束された、永遠の相続の一部である。
3.アブラハムへの約束は、土地の約束も含めて、真の、霊的なイスラエルによって、永遠の賜物として受け継がれる。不従順の、不信仰のイスラエルに対してではない。
4.イエスは、ユダヤ人のメシヤとして世に来られ、ご自分の民はこの方を拒み、神との契約を破った。
5.したがって、イスラエル世俗国家は、(約束の)地に対して、今、神からの権利を持っていない。しかし、今の神からの権利に基づくのではなく、国際的な正義の原則、憐れみ、実効性に基づいて、平和的な居住を求めるべきである。
6.ユダヤ人のメシヤであるイエス・キリストへの信仰によって、異邦人は土地の約束も含めて、アブラハムの約束の相続者となる。
7.キリストの民のこの相続は、キリストの再臨し、御国を立てられる時に起こるのであり、その前ではない。それまでは、私たちキリスト者は私たちの相続に対して武器を取ってはならない。しかし、できうる限り多くの人に、自分の相続を分かち合うべく、自分の命を捨てていかねばならない。
その他の参考記事
Do Jews Have a Divine Right in the Promised Land?
Israel, Palestine and the Middle East
Israel, Arabs, and the Family of God
おそらく、イスラエルを支持できないとするキリスト教関係者は、上の意見のいくつか、あるいは全ての点において賛成であると思います。
ところで、伝統的にユダヤ教のラビも、イスラエルの建国構想には反対の立場を取ってきました。ユダヤ教の中では、世俗的イスラエルの建国に反対していたのは、1)メシヤが来臨されてから、神はイスラエルを回復される。2)国を建てる恣意的な行為、特に神を信じない者たちによる建国は許せない、ということです。ですから今でも、超正統派のユダヤ教徒は「私はユダヤ人である」と言いますが、「イスラエル人である」とは言いません。今の世俗イスラエル国家を嫌っているからです。(今は、宗教的ユダヤ教徒の中にシオニストはおり、入植者の中にそのような人々が多いです。)
回答:不信仰にも関わらず相続を準備される
次が私の聖書的理解です。
1.イスラエルの回復は、神に約束されている。
2.それは最終的に彼らが再臨の主イエスを受け入れることによって完成する。
3.キリストが王となる国、教会と回復したイスラエルが統治する世界が、地上の神の国だ。
4.しかし、神の回復には段階がある。それは、
1)不信仰のままで土地に戻る
2)不信仰のままで国が建てられる
3)御霊が降り注がれ、霊的に回復する
現代のイスラエルは、1)と2)を経て、3)を待っている状態である。
(参照文献:「エゼキエルの見た幻(36-39章)」)
5.不信仰のままで土地に帰り、国を建ててから、神はイスラエルを救いのための苦難にあわせる。これが「大患難」である。
6.大患難によって彼らが試され、メシヤを求めるようになる。再臨のキリストを心に受け入れるための厳しい試練である。
以上ですが「4.」が、ジョン・パイパー氏、また伝来のユダヤ教神学の中になかった見方です。けれども聖書には、
1)イスラエルが神に立ち返って、それで回復するというシナリオ、それに、
2)立ち返っていないのに、神が先行する恵みを与えて立ち返ることを促すシナリオ。
この二つがあります。そうでなければ、既にイスラエルやエルサレムにいるユダヤ人が患難に遭うという、聖書に出てくる数多くの箇所をどのように説明すればよいか分からなくなります。上の1-6までの過程によって初めて、一見矛盾した二つの預言的絵図を一つにまとめることができます。
したがって、
7.不信仰であるから、神に不従順だから、土地と国への権利がないというのは人間的な論理である。不信仰で不従順であるにも関わらず、神は土地と国についての計画を進行させつつある。
という結論が出ます。
恵みがあって、初めて信仰
神は、イスラエルの民に対して古い契約ではなく、新しい契約で臨まれます。新しい契約とは、イスラエルの従順ではなく、神の真実に基づく契約です。恵みがあり、そしてその恵みを信仰によって受け入れることによって救われます。
イスラエルは地上における、目に見える形で神の選びと取り計らいを見ることのできる民です。教会は、天にある霊的祝福がキリストにあって注がれている存在です。したがって、「私たちは、恵みによって、信仰によって救われたのです。」という霊的真理が、イスラエルの土地、国、民族への祝福の中で、目に見える形で認めることができるのです。
そのため、現代イスラエルというのは、言わば「これから救われようとしている、神に既に捉えられている求道者」のような存在である、彼らが気づかないうちに、神が恵みによって彼らに救いの道備えをしておられる、ということです。
イスラエル人の多くが世俗派であり、ユダヤ教の遺産は受け継いでいるけれども、個人的にはキリストどころか、神をも信じていない人々が圧倒的に多いです。しかし、彼らの行なうことや発言すること、そして彼ら自身も意識せずに成し遂げているところに、結果的に、聖書に書かれている通りの奇跡や不思議が起こっています。自分たちは意図していないのに、神の配剤によって、神の意図していることが行われていっています。こういう逆説的な、逆転的な物語が、近現代のイスラエル史です。
続けて、近現代イスラエルを支持する聖書的根拠をご紹介します。
(次の記事へ続く)
こんにちは。これを書いているのは2023年10月28日です。ハマスによるイスラエルヘのテロが起きました。
私は明石先生の聖書解説をよく読ませていただいています。また、同時にパイパー牧師の説教もよく聞いています。この記事をこの今の時、興味深く読ませていただきました。
私も3年ほど前までは、現在のイスラエルと聖書を全く切り離して考えていました。けれどそうは思っていないクリスチャンがいることを知って、初めはびっくりしました。「え?イスラエルは、私たちのことでしょう?」と。
それで、この3年ほどこのことをずっと考えて来ました。確かに、私たちは信仰によってアブラハムの子孫であることが書いてあります。
けれども同時にローマ11章に出会って、信仰によって教会もイスラエルであるけれど、ローマ11章では、完全に「イスラエル」と「異邦人」と言っていますから、「イスラエル」は「イスラエルだ!」と気づきました。
それで、私も長年置き換え神学の立場の中で、説教を聞き続けてきましたので、その事実が大変衝撃でした。神様は約束を最後まで変えない方なのだ!と!その聖なるお名前のゆえに約束を守られると!!「主はあなたを見放さず、あなたを見捨てない。」(申命記31:6)は本当だ!
上の記事の中の、パイパー牧師の
「3.アブラハムへの約束は、土地の約束も含めて、真の、霊的なイスラエルによって、永遠の賜物として受け継がれる。不従順の、不信仰のイスラエルに対してではない。」
を御国の完成の地点から眺めれば、前半の「真の、霊的イスラエル」の中に、教会と回心したイスラエルが入り、後半の「不従順の、不信仰のイスラエル」に対してではない。それならば分かりますけどね。
明石先生がおっしゃっている
「4.しかし、神の回復には段階がある。それは、
1)不信仰のままで土地に戻る
2)不信仰のままで国が建てられる
3)御霊が降り注がれ、霊的に回復する
現代のイスラエルは、1)と2)を経て、3)を待っている状態である。」
は、ローマ11章と重ねて読めば私も今はその理解でおります。
実は私自身今、この度の戦争のことで、教会の中でひとり突飛なことを言っている感じになっております。
今のイスラエルはエゼキエル書の骨と骨がつき、筋と肉が生じ、皮膚が覆った段階で、息はまだ。(すでに信じている方々もありますが)だから、完全でもないし、いつでも正しいわけでもない。
だけれども、将来私たちと同様に、神様の恵みによって救われる兄弟として見て、祈って行きたいです。
またパレスチナ、そして他の国々の中からも「今はまだ」、であっても、やがて恵みによって同じキリストのからだの一部となる方々が起こされるようにも。
ジョン・パイパー先生がローマ11章をどのように読んでいらっしゃるか、調べてみたいですね。
訂正です。昨夜のコメントの中で「置き換え神学の立場の中で説教を聞いて来た」と書きましたが、それは私の誤解でした。すみません。
またジョン・パイパー牧師のローマ11章説教も、ただ恵みによって異邦人もイスラエルも救われると語られていました。イスラエルは見捨てられたという「置換神学」ではないと思いました。