現場は「二国家」案ではない!

中東にキリスト者が良い関わりができるよう、願う働きが、福音的なキリスト者によって運営されているサイトがあり、フィロス・プロジェクト(Philos Project)と言います。ここには中東出身のキリスト者たちも寄稿や編集に関わり、そして何よりも福音的立場をしっかり貫いていることです。中東には、聖書信仰の中心でありイスラエルがあり、それを認め、信仰のユダヤ的ルーツを認めるところに立っています。かつて、「「パレスチナ人クリスチャン」の異論と希望の証し」で紹介した記事も、このサイトから引用しているものです。

そして改めて、国連における米・イスラエルの結末を、九つの項目に要約して、何が起こったのかを説明しているものが、秀逸です。これまで書いてきたものの他に、「現場にいるパレスチナ人の実感」というものを、明瞭に言い表しているところが特筆に値します。私が注目した文言は、太字や色を付けたいと思います。


9 Things You Need to Know about the U.S.-Israel Fallout at the United Nations

1.決議2334号は、イスラエルが即座に、完全に、占領しているパレスチナ領土から、全ての入植活動を停止させることを要求しています。それが、クリスマスとハヌカの前日に提出されました。国連安保理は、国際法で最も力のある組織であり、米国は反イスラエルの決議案には拒否権を行使していました。しかし今回は棄権であり、結果としてイスラエルの行動は平和への罪を犯していると世界から断じられたことになります。

2。イスラエルは、棄権を、偏った、偽善と裏切りの行為であると見なしています。ジョン・ケリー氏がその決定を弁明しました。パレスチナ自治政府は大いに喜び、ハマスやイスラム聖戦などパレスチナのテロ組織も歓喜し、ユダヤ人国家に対する暴力を加速させるべく呼びかけています。

3.西岸(ユダヤ・サマリヤ地方)の入植地が係争の中心になっていますが、イスラエルが67年の六日戦争によって、ヨルダンから奪還したところに家を建てていますが、パレスチナ人や親パレスチナの人々の多くが入植地こそが、和平の阻害になっていると主張しますが、ユダヤ人とアラブ人の紛争は、70年代の入植がはじまる前から起こっていました。したがって、ユダヤ人の多くは入植は和平の妨げになっているのではなく、最終和平合意の懸案事項の一つにしか過ぎないと言います。パレスチナ解放機構(PLO)は、1964年に設立されており、イスラエルが西岸を支配し、入植が始まる前から存在していたことが、それを物語っていると言います。

4.今回の国連決議は、西側の外交努力として、二国家案が絶対に必要だという強固な信念に基づいています。土地を分割し、ユダヤ人国家とアラブ人国家を造り、両隣に平和共存するという構想です。世界のほとんど全ての政府が、米国、イスラエル、パレスチナも含め、公式に二国家案で解決することに決めています。

しかし現場では、ユダヤ人もアラブ人も、二国家案が望ましいのか疑わしくなっているのです。西岸とガザのパレスチナ人の世論調査では、65㌫が二国家案はもはや、実行可能ではないとみなしており、しかも、76㌫は、将来のパレスチナ国家の政府となるパレスチナ自治政府が腐敗していると思っており、49㌫がこの政府はパレスチナ人たちにとって、負担となると言っています。

5.人権を推進する者たちにとって、二国家案の最大の懸念は、西岸からユダヤ人の家々を引き抜くということは、将来のパレスチナ国は、ユダヤ人が完全にいなくなる、ということになることです。これは、イスラエル国内の状況と正反対となり、イスラエルにはアラブ人市民が20㌫もおり、ユダヤ人と同等の権利を持っているからです。

アラブ人がユダヤ人国家に同等の権利を持っていながら、アラブ人国家にユダヤ人が住むのを禁じるというのは、矛盾しており、不公平です。パレスチナ人はそもそも、聖地においてユダヤ人の主権がある所を全く受け入れていない、つまりイスラエルそのものを否定しているのですから、ユダヤ民族を浄化したアラブ人国家は、大いにあり得ることです。

6.二国家による解決案は、比較的新しいものです。これは国連決議181号に起源があり、47年にイスラエルが国家になるにあたっての分割案です。ユダヤ側は分割案を受け入れ、アラブ側が拒否しました。この拒否は1990年代まで続き、93年のオスロ合意によってようやく、PLOがイスラエルの存在を認め、パレスチナ暫定自治政府に参与することを交換条件として、テロ活動を停止しました。

米国側では、ジョージ・ブッシュ大統領が2002年にパレスチナ国家を公に支持したのが、初めてです。そこで、国連の1397号にある二国家案を公認しました。つまり、二国家案はまだ14歳にしかなっていないのです。しかし、この紛争はほとんど一世紀が経ってしまいました。

7.なぜオバマ政権が、8年間、国連において友好的な支持を行なっていたのに、イスラエルを公に非難することにしたのか?その理由は一部に、長いことオバマ大統領とネタニヤフ首相との間に爆発寸前の緊張があったからです。この二人の指導者は仲良くなれませんでした。そしてもう一つ大事なのは、ドナルド次期大統領が、米国の政策を反対の方向に持っていくことを公言していたことです。オバマ氏は、トランプ政権において、イスラエルが「自由に」好きなことをするようにさせるのだ、と思い、それで厳しい姿勢で臨んだようです。しかし、アメリカ人の世論調査では、はるかに多くの人がイスラエルを支持しており、現在国連が対決姿勢を見せている米国とは違います。

8.イスラエル人にとって、これらのことは、中東全域から引き離して考えることはできないのです。ネタニヤフ氏がこう言いました。「50万人がシリアで殺戮されており、スーダンで数万人が虐殺され、中東全体に大火事が起こっているが、オバマ政権と国連安保理は、中東の唯一の民主国であるイスラエルに対して一つになって集まっている。」イスラエル人は、全方向から過激主義の暴力に囲まれていると感じていて、西岸に二、三十万人のユダヤ人が住んでいるということが、この地域の平和の主な妨げになっているという考えは、滑稽でしかないのです。

9.パレスチナ人にとって、特に若い世代にとっては、これらの論争は、生活の改善がない限り、難解なものでしかありません。活動家は入植に対してやかましく騒ぐのですが、それよりも、ユダヤ人とアラブ人が同じ地で、どこに住んでも平等の権利を持つことのほうに、もっと注目を寄せています。

パレスチナ人クリスチャンでパレスチナの大義を擁護してきた、ジョナサン・クタブ氏は、長年、イスラエルに対する批判者であり、パレスチナ国家を提唱していましたが、先月、ニューヨークのシナゴーグに現れ、なんと、イスラエルの全ての地に両民族が一つの国家の中に住むことを呼びかけています。これは、ユダヤ人にとってもアラブ人にとっても多くの欠けがあり、どちら側からも強い反論があるのですが、実際の現場にいる両側の人々にとって、こちらのほうが、ずっと現実に近い感覚なのです。

このように、外交官の考えていることと、現場にいる実際の人々の間に隔たりが大きくなってきているのですが、二国家による解決がどうなるかはまだ見えていません。ただ言えることは、その地域に実際に住む人々の感情や思いに調和している、もっと創造的な方法ということは、早急に考えないといけません。

「現場は「二国家」案ではない!」への3件のフィードバック

  1. こちらは、西岸の入植地に住んでいるユダヤ人の意見です。

    You are the racist, actually, not me

    入植者を暴力的な極右と考えたら、それもまた偏見であり、差別です。むしろ、入植者の多くが実際のパレスチナ人を私たち以上に知っており、共に生活し、共に働いています。

    彼女も、上のパレスチナ人クリスチャンと同じく、「一国家」すなわち併合に賛成です。併合になれば、パレスチナ人が全ての権利を既に、権利を保持しているイスラエル・アラブ人と同じように持つことができるから、ということです。

    現場にいるからこそ、パレスチナ人もユダヤ人も、実は同じことを考えるようになってきているのです。つまり、「そばにいるから、共に生きる道」をそれぞれが考えているのです。

  2. 現実にはパレスチナ入植地建設が、西岸地区のアラブ人に仕事を与えているという現実もあります。すくなくとも1980年代末の第一次インティファーダ以前は、西岸地区でもユダヤ人とパレスチナ人は共存していたと思います。

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