「コミンテルンの謀略と日本の敗戦」に引き続き、江崎道朗さんによる本書ですが、こちらも、ぐいぐいと入っていき、一気に読み終えることができました。こちらは、ますます自分の抱いていた疑問に対して、まっすぐに答える、いわゆる情報史と呼んだらよいのでしょうか、ソ連やアメリカ共産党の影響力工作から見た、日米対立の背景を詳細に描いています。
アメリカがスターリンと共闘していたという矛盾
私には、アメリカ人の友人ががたくさんいます。ある時、日本に訪問した友人の牧師と街中を歩いてきた時、彼が日本共産党の街宣車を見て、「ええっ、日本には共産党があるの?」と驚いていました。それで私は笑いながら、「戦時中は、我が国に、貴方の国は共産主義者と一緒に戦っていましたからね。」と答えると、苦笑いをしながら「その通りだ」と言っていました。
アメリカの庶民の多くは根っからの反共です。私の友人たちの多くが福音派の信仰を持ち、かつ政治的に保守的な人が多いです。けれどもかつて、なんとスターリンの支配するソ連と連携し、日本と戦いました。私はそのこと自体が、潜在的に信じがたいものとして、教科書の近代史を読んでいたものです。そして戦後間もなくして、急旋回して、今度は対ソ連、対中国の防波堤として、日本に自衛隊や日米安保の圧力をかけて来るという現代史は、これまた信じがたいものでした。これが同じアメリカなのか?と思ったものです。
けれども、アメリカに若いころ住み、アメリカが一枚岩ではないことを知りました。また、日本に伝わってくる保守派の人たちの姿はかなり歪められているのも感じていました。本書は、そういった矛盾に見事に解答を与えてくれています。
日米対立には、ソ連や共産党の工作の影響
「コミンテルンの謀略と日本の敗戦」では、日本政府や言論界の深部にまで、共産主義者の影響力工作が働き、機能していたために、対ソではなく、対米に目を向けさせ、戦争を煽っていった様子を見ましたが、本書ではアメリカ側でも対日に目を向けさせた様子が克明に描かれています。ルーズベルト政権の深部に、ものの見事にソ連スパイが入っており、またアメリカ共産党の工作も、言論界やなんと教会にまで入り込んでいて、対日戦を結果的に煽っていったということがあります。
日米戦争が、ソ連を守るための、資本主義の国同士で戦わせるように仕向けたことを、明確に、公式文書の中から説き明かしています。今もその影響はあるでしょう。アメリカにも、リベラルの中には未だ反日的姿勢を取る人たちがいますし、日本に至っては、リベラルだけでなく保守派も反米感情を露わにする人たちがいますが、その怒りは、真実のアメリカではなく、「ルーズベルト政権による、コミンテルンの影響も混じったアメリカ」に対するものだ、ということが分かるのです。
キリスト教会が宣伝に利用される
キリスト者としてずしんと来たことは、何と言っても、アメリカで、キリスト教会に対して、アメリカ共産党の工作があったということです。キリスト教会は、元来、反共です。アメリカ共産党も、初めはキリスト教を攻撃していましたが、途中から戦略を変えて、「内部穿孔工作」に変えました。つまり、叩くのではなく、内部に入り込んで、操作するのです。真正面からであれば、共産党に反対しているであろう多くのキリスト教関係者は、自分たちが気づかぬうちに広告塔にさせられていた事実を、克明に、様々な具体的事例や根拠を出しながら描いています。
江崎さんは、しばしば、エドガー・フーヴァー著に出て来る共産主義運動の構成員のことを取り上げて、次のように分類します。
公然の党員
非公然の党員
同伴者
機会主義者
デュープス
(それぞれの用語の説明をご自身がこちらの記事で説明しています。)
キリスト教会の指導者やマスコミ関係者で、なぜか日本共産党の宗教者の会に参加したり、中核派の団体に加わっていたりと、信じられない!と思っていましたが、その中の一人とも議論したことがあります。その方は、日本共産党とのつながりを指摘されると、断固として否定します。ご本人はその「つながり」を、「公然、非公然の党員のレベル」で考えておられるのだと思いますが、共産主義者は、影響力を穏然と広げていくのも工作として明確に持っていますので、そういった意味では、日本のキリスト教会も、彼らの宗教界に対する操作から免れていないと感じています。
参照記事(ブログKANAISMから):
「今、世界を揺るがす左翼と右翼」
「福音派と共産党」
保守論客ディネシュ・デスーザ(Dinesh D’Souza)
最後に、オバマ大統領を取り上げ、そこでディネシュ・デスーザ氏の著作と映画を取り上げてくれたことは、とても嬉しかったです。私もオバマ元大統領についての彼の本と映画のことは次の記事で取り上げていました。
「2016: オバマのアメリカ(2016: Obama’s America)」
彼は福音派のキリスト者であり、私たちの群れであるカルバリーチャペルに通っていました。
これはアメリカでは、非常に有名になった映画ですが、本当に、日本では酷く歪められた形で批評されるだけで、唯一、古森義久氏の書いた記事ぐらいが、有体に紹介していました。
以上です、本当にこういった視点から出ないと見えてこない過去の歴史だと思いますので、非常に助かります。
本書の紹介について
「「アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄」キリスト者としての書評」への1件のフィードバック