再び本の紹介ですが、これは絶賛したい内容です。
「イスラエル人とは何か - ユダヤ人を含み超える真実」(ドナ・ローゼンタール著 徳間書店)
(原書: “THE ISRAELIS: Ordinary People in an Extraordinary Land” by Donna Rosenthal)
今のイスラエルを知りたい方は、一読必須です。これまでも近現代イスラエルに関する書籍を紹介しましたが、それを今、実際に生きているイスラエル人に取材しながら、生きた証言として肉付けしているからです。だから非常に分かりやすいし、冗談も交ぜながら話を進めていくので「面白い」。本書にあった書評の一つを引用します。
こんな副題をつけることもできるだろう。『イスラエル人とイスラエル人について、常々知りたいと思いながらも、恐らく訊けなかったことすべて』。宗教、軍隊、社会的道徳観、民族集団などなど、いろいろな側面をほとんど網羅し、それらを客観的に、「普通のイスラエル人」の目を通して解説している。爽快なことに、政治家や社会学者の視点からではない。
これまでいろいろ日本人の著者によるイスラエルについての本を目にしてきました。大抵は、パレスチナ寄りの扇情的なもの、ユダヤ人陰謀まがいのもの、アメリカと一緒くたにして批判しているものです。そして比較的公平なものも見つけましたが、地域研究の学術的なものか、軍事マニアによるものであり一般受けしません。残りは本書のような翻訳本です(以前は、サイマル出版が欧米で良書と言われるものを出版していました)。
左の原書の表紙をご覧ください。これ、みなイスラエル人です。イスラエルに旅行に行ったら、どこにでもいそうな若者たちです。イスラエルは本当に複雑で、多様で、四国よりちょっと大きいぐらいの小さな土地で、世界を揺るがすような事件や紛争が起こっているにも関わらず日本と同じ先進国であり、原書の副題にあるように「普通でない地で普通に暮らそうとしている人々」を見ることができます。
信仰を持っている者として、聖書の舞台がそのまま超現代的な場面の中に焼き映されている姿も刺激的です。例えばこんな一文が・・・
聖書の十戒で使われている言葉と同じ言葉でビックマックを注文したり・・・
以前、知人の方が教えてくださいましたが、娘さんがイスラエル人と結婚しエルサレムに在住しているのですが、「もし離婚するとしたら、イスラエルがもう嫌で出て行く時でしょう。」と言ったそうですが、上の文の続きはこうなっています。
行列におとなしく並ぶなんて軟弱なことだと考えたり、『禁煙』と書かれているところで堂々とマルボロに火をつけたり。
日本人とは非常に対照的な国民性ですが、けれども数々の先端技術を生み出しているその勤勉さは似ているかも。そして、中東紛争の火薬庫にいながらにして、現代的な生活をしている様子として、続きがこうなっています。
イスラエルの若者たちは、MTVが大好きで、いそいそとショッピングモールへ出かけては、ジェニファー・ロペスの最新CDをゲットする。そしてガスマスクも買う。
ところで、イスラエル人への霊的救いのことも思わさせられました。例えば、以下の文。
インティファーダが激化した2002年8月、約2000の騎馬警官や兵士や爆弾処理専門家が監視する中、テルアビブで恒例の「ラブ・マーチ」が開催された。・・25万人をゆうに超える人たちが、週末の派手なお祭騒ぎを他の所望と集まったのだ。まるでリオのカーニバルみたいだった。裸同然のイスラエル人たちが浜辺で陽気に浮かれ騒ぎ、生演奏に乗って情熱的に体を揺らす。・・
「僕ら、正気でいたいだけなんですよ」とオーリが説明してくれた。「ほんの数キロ先のガザじゃ、イスラエル軍とパレスチナ人が殺し合いをしてるけど、そんなこと全部どこか遠くの大陸で起きていることみたいに、僕らは羽目を外す。僕は国民総アルツハイマー病って呼んでるけど、そんな状態なんです。朝のニュースのことなんか誰も思い出したがらない」。あまりに多くの友人が殺されたり傷つけられたりするのを見てきたせいで、イスラエル人はこんなモットーを掲げるようになった。「人生は不確実だ。だからデザートを真っ先に食べろ」。外国旅行もそうだが、「現在を楽しめ」という態度は、いいかげんに暮らしているからではない。ストレスからの避難なのだ。・・・
次のイザヤ書の御言葉を思い出しました。アッシリヤ軍に包囲されているエルサレム住民への、神の叱責の一部です。
その日、万軍の神、主は、「泣け。悲しめ。頭を丸めて、荒布をまとえ。」と呼びかけられたのに、なんとお前たちは楽しみ喜び、牛を殺し、羊をほふり、肉を食らい、ぶどう酒を飲み、「飲めよ、食らえよ。どうせ、あすは死ぬのだから。」と言っている。(22章12‐13節)
罪の犯し方も、極めて聖書的という、笑えない状況を見ました。カルバリーチャペル・テルアビブの牧師さんが、「私たちはラスベガスとサンフランシスコに住んだことがあるが、テルアビブはもっと世俗的だ。」とおっしゃっていたのを思い出します。でも、だからこそイエス・キリストに対する偏見が少なく、まさに「罪人、取税人、遊女が悔い改めて主のところに来る」という福音書の世界が、今も起こっているそうです。
ところで、原書は2003年に書かれています。したがって自爆テロの「第二次インティファーダ」の最中であったため、本の内容もそのことがたくさん書かれています。でも今はもっと平穏です。旅行者の数もうなぎ上りです。(事実、大韓航空は2008年9月に仁川国際空港からのテルアビブ直行便を再開しました。)「イスラエル旅行は恐い」という日本人に対して、私は、「イスラエル人が日本旅行をしようと考える時に、『日本は地震があるから恐い』と考えるんだけれども、どう恐い?ここに住んでいて。」と聞き返します。特にツアーで行かれれば安全については何の問題もありません。
日本とイスラエルはまだまだ、遠い国だと思います。欧州の国に住んだことのある日本人の方と話すと、どの国からもテルアビブ行きの便があるようで、ヨーロッパとイスラエルの歴史的、また経済的つながりを感じます。アメリカにもユダヤ人は多いので、肌身でその存在を知ることができるのですが・・・。日本の人たちがどれだけイスラエルについて知らないことを知るには、逆にイスラエルの人たちが今の日本をどう見ているかを知ると理解できるかもしれません。おもしろいブログを見つけました。
「エルサレム日記 イスラエル人から見た日本」
以上です。