列王記第一1−2章 「王の正義」

アウトライン

1A 王位への脅威 1
   1B ダビデの老化 1−10
   2B すばやい対処 11−40
      1C ナタン 11−27
      2C ダビデ自身 28−40
   3B 最後のチャンス 41−53
2A 刑の執行 2
   1B ダビデの遺言 1−12
   2B 反逆罪 13−46
      1C 主犯格 13−27
      2C 殺人者 28−35
      3C 不従順 36−46

本文

 列王記第一1章を開いてください。今日は1章と2章を学びます。ここでのテーマは、「王の正義」です。列王記は、実際はそのままサムエル記第二の続きになっています。つまり、サムエル記第二の最後にダビデの晩年が書かれていましたが、列王記第一はダビデの老年の姿が書かれています。そしてダビデが死に、王権はその子ソロモンに受け継がれてイスラエル王国が隆盛を極める話に移っていきます。

1A 王位への脅威 1
1B ダビデの老化 1−10
1:1 ダビデ王は年を重ねて老人になっていた。それで夜着をいくら着せても暖まらなかった。

 このとき王はおそらくは七十歳です。彼の寿命が七十年だからです。旧約時代の他の聖徒に比べると、かなり短いです。けれども彼がどのような人生を歩んできたかを考えると、そうかもしれないと思います。彼は多くの戦いを経てきた戦士です。早いうちに老化現象が起こってきました。血液の循環が悪かったのでしょう、冷え性になっています。

1:2 そこで、彼の家来たちは彼に言った。「王さまのためにひとりの若い処女を捜して来て、王さまにはべらせ、王さまの世話をさせ、あなたのふところに寝させ、王さまを暖めるようにいたしましょう。」

 当時、いやつい最近まで、このような療法が取られていました。つまり、年老いた人は、若い人と共に寝て温まることによって、その熱とエネルギーを吸収できる、という考えです。

1:3 こうして、彼らは、イスラエルの国中に美しい娘を捜し求め、シュネム人の女アビシャグを見つけて、王のもとに連れて来た。1:4 この娘は非常に美しかった。彼女は王の世話をするようになり、彼に仕えたが、王は彼女を知ろうとしなかった。

 医療的方法とは言え、ダビデは用意に性的な目的によっても彼女を利用することはできたでしょう。老人ですから生殖機能は働いていないでしょうが、それでもここに、王は彼女を知ろうとはしなかった、とあります。肉体的関係を持たなかった、ということです。ダビデは、バテ・シェバを自分のものにしてから、その罪を悔い改め、愛に裏づけられた主の懲らしめを受けて来ました。肉の欲との関わりを、霊的に絶っていたのです。

 このようにダビデが非常に老いてしまったことにより、イスラエル国の王位の継承問題が出てきます。そこで次の事件が起こりました。

1:5 一方、ハギテの子アドニヤは、「私が王になろう。」と言って、野心をいだき、戦車、騎兵、それに、自分の前を走る者五十人を手に入れた。

 アドニヤは、ダビデの四男です。すでに長男のアムノンと三男のアブシャロムは死にました。そして、次男はキルアブですが、第二サムエル記3章に彼の名が言及されているだけで、その後は出てきません。可能性として、彼もすでに死んでしまったことが考えられます。したがって、四男であるアドニヤは自分がダビデの後を継ぐことができると考えたのです。けれども、すでにダビデはソロモンに王位を継承することを話していました。第一歴代誌22章です。「見よ。あなたにひとりの子が生まれる。彼は穏やかな人になり、わたしは、彼に安息を与えて、回りのすべての敵に煩わされないようにする。彼の名がソロモンと呼ばれるのはそのためである。彼の世に、わたしはイスラエルに平和と平穏を与えよう。彼がわたしの名のために家を建てる。彼はわたしにとって子となり、わたしは彼にとって父となる。わたしはイスラエルの上に彼の王座をとこしえまでも堅く立てる。(22:9-10」ダビデに与えられた、メシヤがダビデの王座から出てくるという約束は、ソロモンに受け継がれることになりました。

 ですからアドニヤが行なっていることは、乗っ取りです。彼は「野心をいだいた」とあります。けれども聖書全体に貫かれている原則は、「自分を高めようとする者は低くされ、へりくだる者が高められる」というものです(ヤコブ4:10など)。そしてアドニヤは、兄アブシャロムが行なったことと似たようなことを行ないました。戦車、騎兵に、自分の前を走る者五十人を手に入れています。

1:6 ・・彼の父は存命中、「あなたはどうしてこんなことをしたのか。」と言って、彼のことで心を痛めたことがなかった。そのうえ、彼は非常な美男子で、アブシャロムの次に生まれた子であった。・・

 ダビデはアブシャロムと同様、アドニヤに対してもしつけを怠っていたようです。彼が主の懲らしめを自分の身に受けて、その愛とあわれみを知っていたのにも関わらず、主にあって子たちを訓練しなかったのはなぜだろうか、と不思議に思います。けれども、その子ソロモンは反面教師として、訓練することを非常に尊んだようです。箴言はソロモンが書きました。その中に、自分の子、おそらくはレハブアムに対して、父である私の言うことを聞き入れよ、と諭している部分が出てきます(4:10など)。

1:7 彼はツェルヤの子ヨアブと祭司エブヤタルに相談をしたので、彼らはアドニヤを支持するようになった。1:8 しかし、祭司ツァドクとエホヤダの子ベナヤと預言者ナタン、それにシムイとレイ、および、ダビデの勇士たちは、アドニヤにくみしなかった。

 イスラエル指導部の中で、意見が分かれました。軍隊の長であったヨアブと祭司エブヤタルが、アドニヤを支持してしまったのです。ダビデの意向、特に主からの言葉があったのに、彼らはそれに従いませんでした。このことによって、彼らはしかるべきさばきを後で受けます。けれども、神のあわれみによって、もう一人の祭司ツァドクと軍隊における重鎮であったベナヤ、そしてダビデの友人でもある預言者ナタンなどは、アドニヤにくみしませんでした。

1:9 アドニヤは、エン・ロゲルの近くにあるゾヘレテの石のそばで、羊、牛、肥えた家畜をいけにえとしてささげ、王の子らである自分の兄弟たちすべてと、王の家来であるユダのすべての人々とを招いた。1:10 しかし、預言者ナタンや、ベナヤ、それに勇士たちや、彼の兄弟ソロモンは招かなかった。

 エン・ロゲルは、ケデロンの谷のところにあります。ダビデの町よりももう少し南のところです。そこでアドニヤはいけにえをささげ、その肉によって祝宴を開くことにしました。そして、自分を支持していると思われる者たちのみしか招きませんでした。ナタン、ベナヤ、勇士、そして弟のソロモンは招いていません。

2B すばやい対処 11−40
1C ナタン 11−27
1:11 それで、ナタンはソロモンの母バテ・シェバにこう言った。「私たちの君ダビデが知らないうちに、ハギテの子アドニヤが王となったということを聞きませんでしたか。1:12 さあ、今、私があなたに助言をいたしますから、あなたのいのちとあなたの子ソロモンのいのちを助けなさい。」

 預言者ナタンが、この王位乗っ取りの危機に反応して、すばやく行動に移しています。彼は、アドニヤが王になったら、自分の脅威となるソロモンとその母バテ・シェバが殺すことは明らかであると思いました。そこで、その救済策をバテ・シェバに助言します。

1:13 「さあ、ダビデ王のもとに行って、『王さま。あなたは、このはしために、必ず、あなたの子ソロモンが私の跡を継いで王となる。彼が私の王座に着く、と言って誓われたではありませんか。それなのに、なぜ、アドニヤが王となったのですか。』と言いなさい。1:14 あなたがまだそこで王と話しているうちに、私もあなたのあとからはいって行って、あなたのことばの確かなことを保証しましょう。」

 ダビデにアドニヤが王となったことをバテ・シェバが告げにいき、それからバテ・シェバの言葉に裏づけをするために、ナタン本人が王の前に出て同じことを話します。

1:15 そこで、バテ・シェバは寝室の王のもとに行った。・・王は非常に年老いて、シュネム人の女アビシャグが王に仕えていた。・・1:16 バテ・シェバがひざまずいて、王におじぎをすると、王は、「何の用か。」と言った。1:17 彼女は答えた。「わが君。あなたは、あなたの神、主にかけて『必ず、あなたの子ソロモンが私の跡を継いで王となる。彼が私の王座に着く。』と、このはしためにお誓いになりました。1:18 それなのに、今、アドニヤが王となっています。王さま。あなたはそれをご存じないのです。」

 ダビデは、主から与えられた約束にしたがって、ソロモンが自分の跡を継ぐとバテ・シェバに誓っていたようです。

1:19 彼は、牛や肥えた家畜や羊をたくさん、いけにえとしてささげ、王のお子さま全部と、祭司エブヤタルと、将軍ヨアブを招いたのに、あなたのしもべソロモンは招きませんでした。1:20 王さま。王さまの跡を継いで、だれが王さまの王座に着くかを告げていただきたいと、今や、すべてのイスラエルの目はあなたの上に注がれています。1:21 そうでないと、王さまがご先祖たちとともに眠りにつかれるとき、私と私の子ソロモンは罪を犯した者とみなされるでしょう。

 つまり、ダビデの死後、ソロモンとその母バテ・シェバは死罪に定められる、ということです。

1:22 彼女がまだ王と話しているうちに、預言者ナタンがはいって来た。1:23 家来たちは、「預言者ナタンがまいりました。」と言って王に告げた。彼は王の前に出て、地にひれ伏して、王に礼をした。1:24 ナタンは言った。「王さま。あなたは『アドニヤが私の跡を継いで王となる。彼が私の王座に着く。』と仰せられましたか。1:25 実は、きょう、彼は下って行って、牛と肥えた家畜と羊とをたくさん、いけにえとしてささげ、王のお子さま全部と、将軍たちと、祭司エブヤタルとを招きました。そして、彼らは、彼の前で飲み食いし、『アドニヤ王。ばんざい。』と叫びました。1:26 しかし、あなたのしもべのこの私や祭司ツァドクやエホヤダの子ベナヤや、それに、あなたのしもべソロモンは招きませんでした。1:27 このことは、王さまから出たことなのですか。あなたは、だれが王の跡を継いで、王さまの王座に着くかを、このしもべに告げておられませんのに。」

 ダビデはナタンには、自分の跡継ぎになる息子がだれなのかを話していなかったようです。そこでナタンは、ダビデの了承のもとアドニヤの王位任命式が行なわれているのかどうか、ダビデに聞いています。

2C ダビデ自身 28−40
 そしてダビデも事の重大性に気づき、すぐ行動に移します。1:28 ダビデ王は答えて言った。「バテ・シェバをここに呼びなさい。」彼女が王の前に来て、王の前に立つと、1:29 王は誓って言った。「私のいのちをあらゆる苦難から救い出してくださった主は生きておられる。1:30 私がイスラエルの神、主にかけて、『必ず、あなたの子ソロモンが私の跡を継いで王となる。彼が私に代わって王座に着く。』と言ってあなたに誓ったとおり、きょう、必ずそのとおりにしよう。」

 ダビデは、主にあってソロモンを王にすることを確約します。

1:31 バテ・シェバは地にひれ伏して、王に礼をし、そして言った。「わが君、ダビデ王さま。いつまでも生きておられますように。」1:32 それからダビデ王は言った。「祭司ツァドクと預言者ナタン、それに、エホヤダの子ベナヤをここに呼びなさい。」彼らが王の前に来ると、1:33 王は彼らに言った。「あなたがたの主君の家来たちを連れ、私の子ソロモンを私の雌騾馬に乗せ、彼を連れてギホンへ下って行きなさい。」

 王には、特別な雌騾馬がありました。これは王以外のだれも乗ってはならないとされ、乗る者は死刑でした。けれどもソロモンが乗ることになります。つまり、彼が王となる、ということです。

1:34 「祭司ツァドクと預言者ナタンは、そこで彼に油をそそいでイスラエルの王としなさい。そうして、角笛を吹き鳴らし、『ソロモン王。ばんざい。』と叫びなさい。1:35 それから、彼に従って上って来なさい。彼は来て、私の王座に着き、彼が私に代わって王となる。私は彼をイスラエルとユダの君主に任命した。」1:36 エホヤダの子ベナヤが王に答えて言った。「アーメン。王さまの神、主も、そう言われますように。1:37 主が、王さまとともにおられたように、ソロモンとともにおられ、彼の王座を、わが君、ダビデ王の王座よりもすぐれたものとされますように。」

 ダビデが、アドニヤに組しなかった祭司ツァドクと預言者ナタンを連れて行くように、これまたくみしなかったベナヤに言いつけました。そしてベナヤ自身もこのことを喜んでいます。

1:38 そこで、祭司ツァドクと預言者ナタンとエホヤダの子ベナヤ、それに、ケレテ人とペレテ人とが下って行き、彼らはソロモンをダビデ王の雌騾馬に乗せ、彼を連れてギホンへ行った。

 ギホンは、エン・ロゲルの泉と同様ケデロンの谷のところにあり、ダビデの町のすぐ横にあります。そしてケレテ人とペレテ人はダビデの護衛だったのでしょう。

1:39 祭司ツァドクは天幕の中から油の角を取って来て、油をソロモンにそそいだ。そうして彼らが角笛を吹き鳴らすと、民はこぞって、「ソロモン王。ばんざい。」と叫んだ。1:40 民はみな、彼のあとに従って上って来た。民が笛を吹き鳴らしながら、大いに喜んで歌ったので、地がその声で裂けた。

 ものすごい歓声で地が割れるほどでした。ここで祭司が油の角で王であるソロモンに油を注いでいるのは印象的です。しかもそこには、預言者ナタンもいます。キリストは、大祭司であり王であるために油注がれた方であり、また預言者としての働きも行ないます。イエスは、地上におられたときに預言的な働きを主に行ない、そして死んでよみがえり昇天されたときは、神の右の座で祭司的な執り成しの働きを行なっておられ、そして地上に戻って来られるときは、王としての役目を果たされます。

3B 最後のチャンス 41−53
1:41 アドニヤと、彼に招待された者たちはみな、食事を終えたとき、これを聞いた。ヨアブは角笛の音を聞いて言った。「なぜ、都で騒々しい声が起こっているのだろう。」

 アドニヤたちは、ソロモンの王位就任式が行なわれているところと、さほど遠くないところで祝宴を開いています。

1:42 彼がまだそう言っているうちに、祭司エブヤタルの子ヨナタンがやって来た。アドニヤは言った。「はいりなさい。あなたは勇敢な人だから、良い知らせを持って来たのだろう。」1:43 ヨナタンはアドニヤに答えて言った。「いいえ、私たちの君、ダビデ王はソロモンを王としました。1:44 ダビデ王は、祭司ツァドクと預言者ナタンとエホヤダの子ベナヤ、それに、ケレテ人とペレテ人とをソロモンにつけて送り出しました。彼らはソロモンを王の雌騾馬に乗せ、1:45 祭司ツァドクと預言者ナタンがギホンで彼に油をそそいで王としました。こうして彼らが大喜びで、そこから上って来たので、都が騒々しくなったのです。あなたがたの聞いたあの物音はそれです。1:46 しかも、ソロモンはすでに王の座に着きました。1:47 そのうえ、王の家来たちが来て、『神が、ソロモンの名をあなたの名よりも輝かせ、その王座をあなたの王座よりもすぐれたものとされますように。』と言って、私たちの君、ダビデ王に祝福のことばを述べました。すると王は寝台の上で礼拝をしました。1:48 また、王はこう言われました。『きょう、私の王座に着く者を与えてくださって、私がこの目で見るようにしてくださったイスラエルの神、主はほむべきかな。』」

 ソロモンはイスラエルの民に認められただけではなく、ダビデ自身によって認証された王であることを、ヨナタンはアドニヤに告げました。

1:49 すると、アドニヤの客たちはみな、身震いして立ち上がり、おのおの帰途についた。

 これで祝宴は終わりです。みな恐れて、そそくさと自分たちの家に帰りました。

1:50 アドニヤもソロモンを恐れて立ち上がり、行って、祭壇の角をつかんだ。1:51 そのとき、ソロモンに次のように言って告げる者がいた。「アドニヤはソロモン王を恐れ、祭壇の角をしっかり握って、『ソロモン王がまず、このしもべを剣で殺さないと私に誓ってくださるように。』と言っています。」

 祭壇の角とは、神殿のところで、動物のいけにえを火によってささげる青銅の祭壇のことです。その祭壇には四隅に角があります。そして当時、その角をつかめば、ちょうど逃れの町のように、自分の命を取るために追う者たちから救われる、と考えられていました。そこでアドニヤは祭壇の角をつかみました。

1:52 すると、ソロモンは言った。「彼がりっぱな人物であれば、彼の髪の毛一本でも地に落ちることはない。しかし、彼のうちに悪があれば、彼は死ななければならない。」1:53 それから、ソロモン王は人をやってアドニヤを祭壇から降ろさせた。彼がソロモン王の前に来て礼をすると、ソロモンは彼に言った。「家へ帰りなさい。」

 ソロモンはなんと寛大なのでしょうか!通常なら、だれかが王になれば、その王は自分の脅威になるような者たちをことごとく殺していました。ましてや、王位を乗っ取ろうとし、そして自分の命も取ろうと考えていた者は、必ず殺されなければいけません。それは、王国が確立するためであり、反逆行為によって国が不安定にならないためです。けれどもソロモンは、アドニヤに猶予を示しました。あなたがこれから悪事を行なわないでいるかぎり、危害を与えることはしない、という猶予です。それで殺さないで、家に帰らせました。

2A 刑の執行 2
1B ダビデの遺言 1−12
2:1 ダビデの死ぬ日が近づいたとき、彼は息子のソロモンに次のように言いつけた。2:2 「私は世のすべての人の行く道を行こうとしている。強く、男らしくありなさい。」

 ダビデは最後の言葉をソロモンに残します。ソロモンは、少し弱々しい子であったようです。これから王として、とてつもない責任を任されます。そこで、強く、男らしくありなさい、とダビデによって命じられています。

2:3 あなたの神、主の戒めを守り、モーセの律法に書かれているとおりに、主のおきてと、命令と、定めと、さとしとを守って主の道を歩まなければならない。あなたが何をしても、どこへ行っても、栄えるためである。

 モーセがヨシュアに語った最後の言葉そのものです。主の律法から右にも左にもそれることなく、ことごとく行ないなさい、そうすればあなたは繁栄する、という約束です。詩篇1篇の中に、主のおしえを喜びとする人は、水路のそばに植えられた木のようで、何をしても栄えると書いてあります。

2:4 そうすれば、主は私について語られた約束を果たしてくださろう。すなわち「もし、あなたの息子たちが彼らの道を守り、心を尽くし、精神を尽くして、誠実をもってわたしの前を歩むなら、あなたには、イスラエルの王座から人が絶たれない。」

 周囲の敵がいかに強靭であろうとも、主のみことばから離れなければ、決して廃れることはない、滅ぼされることはない、という約束です。この約束の実現を、列王記の中に見ていくことになりますが、主の前に正しく歩んでいる王は、敵から救われ、そうでない者は敵によって倒されています。

2:5 また、あなたはツェルヤの子ヨアブが私にしたこと、すなわち、彼がイスラエルのふたりの将軍、ネルの子アブネルとエテルの子アマサとにしたことを知っている。彼は彼らを虐殺し、平和な時に、戦いの血を流し、自分の腰の帯と足のくつに戦いの血をつけたのだ。2:6 だから、あなたは自分の知恵に従って行動しなさい。彼のしらが頭を安らかによみに下らせてはならない。

 ダビデは、ヨアブについて彼を死刑にすることを指示しています。彼はヨアブが、戦いの勇士であることは、十分すぎるほど認めていました。けれどもダビデが最も嫌ったことを、そして主の戒めに違反したことをヨアブは行ないました。それは、平和の時に流血の罪を犯したことです。覚えていますか、まだイスラエルとユダが統一されず戦いがつづいていたとき、イスラエルの将軍アブネルが、ダビデのところに来て、統一の手助けをすることを約束しました。ところがヨアブは、彼をヘブロンの町の門のところで殺したのです。

 それから、アマサも殺しました。彼はアブシャロムについていた将軍でしたが、ダビデがヨアブに代わって将軍にしたとき、ヨアブはやはりアマサも殺してしまったのです。戦争のときに血を流すのは、もちろん仕方がないことですが、平和なときに血を流すのは、モーセの「殺してはならない」の戒めを違反していることになります。殺人者は死刑をもって報われなければいけないことも、律法の中に書かれています。

2:7 しかし、ギルアデ人バルジライの子らには恵みを施してやり、彼らをあなたの食事の席に連ならせなさい。私があなたの兄弟アブシャロムの前から逃げたとき、彼らは私の近くに来てくれたからだ。

 バルジライは、ダビデがアブシャロムの手から逃れて、ヨルダン川の東に行ったとき、ダビデたちの糧食を補ってくれた人です。アブシャロムの死後、ダビデはバルジライにいっしょにエルサレムに来てくれませんか、と頼みますが、彼は老齢であり故郷で死にたいと言って、断わりました。けれども、彼の子キムハムがダビデといっしょにエルサレムに行きました。ダビデはこのようにバルジライに約束したので、その約束をはたすべくソロモンに命じました。

2:8 また、あなたのそばには、バフリムの出のベニヤミン人ゲラの子シムイがいる。彼は、私がマハナイムに行ったとき、非常に激しく私をのろった。しかし、彼は私を迎えにヨルダン川に下って来たので、私は主にかけて、「あなたを剣で殺さない。」と言って彼に誓った。2:9 だが、今は、彼を罪のない者としてはならない。あなたは知恵のある人だから、彼にどうすれば彼のしらが頭を血に染めてよみに下らせるかを知るようになろう。

 シムイは、ダビデがアブシャロムから逃れているときに、彼をのろった者です。アブシャロムが死んでから、彼はダビデのところに来て、許しを請いました。そうしたらダビデは赦しました。けれども、ダビデはシムイが反抗する心を持っていたのを知っていました。表面的には従っているが、何かきっかけがあれば再び反抗することを知っていました。だからソロモンに、あなたの知恵によって、彼をどのように対処しなければいけないか、わかるだろう、と言っています。

2:10 こうして、ダビデは彼の先祖たちとともに眠り、ダビデの町に葬られた。

 ダビデはダビデの町に葬られました。五旬節のときに弟子たちが聖霊に満たされ、他国の言語を語り始めてから、ペテロは説教をしました。その時に、ダビデはこのとおり墓に葬られている、ということを話しましたが、ペテロが説教をしているところに墓があり、そこに世界中のユダヤ人がやって来ていました。現在もダビデの墓が城壁の南のところにあります。

2:11 ダビデがイスラエルの王であった期間は四十年であった。ヘブロンで七年治め、エルサレムで三十三年治めた。

 ここに出てくる数字はみな聖書の中で象徴的な数字になっています。四十年というのは、さばきを表すときに使われています。ノアの時代の洪水は、4040夜雨が続きました。モーセの生涯は、40歳でエジプトから逃れ、80歳でイスラエルをエジプトから出し、120歳で死んだという、40年の区切りを持っています。預言者としてのさばきを彼は行ないました。ダビデも同じように、王としてイスラエルをさばきました。

 そして七年ヘブロンで治めたとありますが、七は完全数です。神が六日で天地を造り、七日目を聖日となさいました。そしてエルサレムで三十三年治めましたが、イエスさまが死なれたのはだいたい三十三歳のときです。

2:12 ソロモンは父ダビデの王座に着き、その王位は確立した。

 こうして無事にソロモンに王位が継承されました。ところが、先ほどソロモンに服従したとされるアドニヤが、王位乗っ取りの野望を捨てられず、バテ・シェバのところに向かいます。

2B 反逆罪 13−46
1C 主犯格 13−27
2:13 あるとき、ハギテの子アドニヤがソロモンの母バテ・シェバのところにやって来た。彼女は、「平和なことで来たのですか。」と尋ねた。

 以前、ソロモンに逆らったアドニヤですから、平和なことで来たのかそうでないのか、バテ・シェバは気にありました。

 彼は、「平和なことです。」と答えて、2:14 さらに言った。「あなたにお話ししたいことがあるのですが。」すると彼女は言った。「話してごらんなさい。」2:15 彼は言った。「ご存じのように、王位は私のものであるはずですし、すべてのイスラエルは私が王となるのを期待していました。それなのに、王位は転じて、私の弟のものとなりました。主によって彼のものとなったからです。2:16 今、あなたに一つのお願いがあります。断わらないでください。」彼女は彼に言った。「話してごらんなさい。」2:17 彼は言った。「どうかソロモン王に頼んでください。あなたからなら断わらないでしょうから。シュネム人の女アビシャグを私に与えて私の妻にしてください。」

 これは、完全に王位乗っ取りの意図を示しています。シュネム人の女アビシャクは、ダビデが老齢のとき、彼に使えていた若い女です。つまり、ほとんどそばめと同じ地位が、彼女に与えられていました。その彼女をほしがるということは、つまり、自分が王位を継承するのだ、ということを意味していました。アブシャロムが、屋上でダビデのそばめたちのところに入ったのを思い出してください。それは、ダビデから王位をアブシャロムが奪い取ったことを公に示す行為でした。当時の王たちはこのようにして、以前の王のハーレムを自分のものにすることによって、王権を誇示したのです。それを今、アドニヤが行なおうとしています。

2:18 そこで、バテ・シェバは、「よろしい。私から王にあなたのことを話してあげましょう。」と言った。

 バテ・シェバは、このときは事の重大性に気づいていなかったようです。

2:19 バテ・シェバは、アドニヤのことを話すために、ソロモン王のところに行った。王は立ち上がって彼女を迎え、彼女におじぎをして、自分の王座に戻った。王の母のためにほかの王座を設けさせたので、彼女は彼の右にすわった。2:20 そこで、彼女は言った。「あなたに一つの小さなお願いがあります。断わらないでください。」王は彼女に言った。「母上。その願い事を聞かせてください。お断わりしないでしょうから。」2:21 彼女は言った。「シュネム人の女アビシャグをあなたの兄のアドニヤに妻として与えてやってください。」2:22 ソロモン王は母に答えて言った。「なぜ、あなたはアドニヤのためにシュネム人の女アビシャグを求めるのですか。彼は私の兄ですから、彼のために、王位を求めたほうがよいのではありませんか。彼のためにも祭司エブヤタルやツェルヤの子ヨアブのためにも。」

 ソロモンはすぐに気づきました。アビシャクをアドニヤに妻として与えるなら、それはつまり、アドニヤが王となることを意味するのだ、と彼は言っています。

 ところで、このアビシャクという女性、ソロモンが雅歌を書きましたが、そこに出てくる女性ではないかと言われています。ダビデの床で仕えていたアビシャクですが、そこときから若いソロモンは彼女に恋していたのではないかと考えられます。ソロモンは合計千人の妻とそばめを後に持ちますが、そのほとんどは政略結婚であり本望ではありませんでした。けれども、彼にはたった一人、自分が本当に好きな女性がいたことを、雅歌の中で書いています。それがこのアビシャクではないかと言われています。

 そういう理由があったかどうかは分かりませんが、ソロモンはすぐにアドニヤが企んでいることを察知しました。

2:23 ソロモン王は主にかけて誓って言った。「アドニヤがこういうことを言って自分のいのちを失わなかったら、神がこの私を幾重にも罰せられるように。2:24 私の父ダビデの王座に着かせて、私を堅く立て、お約束どおりに、王朝を建ててくださった主は生きておられる。アドニヤは、きょう、殺されなければなりません。」

 アドニヤには猶予を与えていましたが、ここで彼が王国確立の不安定要因になると、ソロモンは判断しました。それで死刑にします。

2:25 こうして、ソロモン王は、エホヤダの子ベナヤを遣わしてアドニヤを打ち取らせたので、彼は死んだ。

 死刑執行は、ベナヤが行ないました。そしてアドニヤだけではありません、彼にくみした者たちも正しくさばかなければいけないとソロモンは判断しました。

2:26 それから、王は祭司エブヤタルに言った。「アナトテの自分の地所に帰りなさい。あなたは死に値する者であるが、きょうは、あなたを殺さない。あなたは私の父ダビデの前で神である主の箱をかつぎ、父といつも苦しみを共にしたからだ。」2:27 こうして、ソロモンはエブヤタルを主の祭司の職から罷免した。シロでエリの家族について語られた主のことばはこうして成就した。

 エブヤタルは殺されはしませんでしたが、祭司職は剥奪されました。これで代々継がれてきた、祭司職の継承は途絶えてしまったのです。もちろんツァドクの家系がありますから、アロンの祭司職は引き継がれていきますが、エブヤタルの系統はなくなります。

 そして何と、これはこの出来事があった百年ほど前に、ある神の人が預言したことばの成就になっていました。サムエル記第一の最初のほうを思い出してください。祭司エリがいました。二人の息子がひどい罪を犯していたので、神の人とそしてサムエルが、エリの家が絶たれることを預言しました。神のみことばは、たとえ百年という長い月日を経っても、必ずその通りになります。

2C 殺人者 28−35
2:28 この知らせがヨアブのところに伝わると、・・ヨアブはアドニヤについたが、アブシャロムにはつかなかった。・・ヨアブは主の天幕に逃げ、祭壇の角をつかんだ。

 今度はヨアブです。ヨアブは以前アドニヤが行なったように、祭壇の角をつかみました。

2:29 ヨアブが主の天幕に逃げて、今、祭壇のかたわらにいる、とソロモン王に知らされたとき、ソロモンは、「行って、彼を打ち取れ。」と命じて、エホヤダの子ベナヤを遣わした。2:30 そこで、ベナヤは主の天幕にはいって、彼に言った。「王がこう言われる。『外に出よ。』」彼は、「いやだ。ここで死ぬ。」と言った。ベナヤは王にこのことを報告して言った。「ヨアブはこう言って私に答えました。」2:31 王は彼に言った。「では、彼が言ったとおりにして、彼を打ち取って、葬りなさい。こうして、ヨアブが理由もなく流した血を、私と、私の父の家から取り除きなさい。2:32 主は、彼が流した血を彼の頭に注ぎ返されるであろう。彼は自分よりも正しく善良なふたりの者に撃ちかかり、剣で彼らを虐殺したからだ。彼は私の父ダビデが知らないうちに、ネルの子、イスラエルの将軍アブネルと、エテルの子、ユダの将軍アマサを虐殺した。2:33 ふたりの血は永遠にヨアブの頭と彼の子孫の頭とに注ぎ返されよう。しかし、ダビデとその子孫、およびその家と王座にはとこしえまで、主から平安が下されよう。」2:34 エホヤダの子ベナヤは上って行って、彼を打ち取った。彼は荒野にある自分の家に葬られた。

 ヨアブは、祭壇の角をつかんでいましたが、それでも死刑にされました。これは神の律法にかなったことです。出エジプト記2114節にこう書いてあります。「しかし、人が、ほしいままに隣人を襲い、策略をめぐらして殺した場合、この者を、わたしの祭壇のところからでも連れ出して殺さなければならない。」正義の執行は、宗教的儀式にとって取り下げられることはない、ということです。私たちが最後の日に主の前に出るときに、「私たちは、あなたの御名によって悪霊を追い出し、預言をしたではありませんか。」と言っても、「わたしはあなたを全然知らない。不法を行なう者ども、ここから出てゆけ。」と言われる、とイエスさまがおっしゃられました。

2:35 王はエホヤダの子ベナヤを彼の代わりに軍団長とし、王は祭司ツァドクをエブヤタルの代わりとした。

 これまではヨアブが軍団長であったようです。そしてエブヤタルが大祭司であったようですが、ユァドクに交代しました。

3C 不従順 36−46
2:36 王は人をやって、シムイを呼び寄せ、彼に言った。「自分のためにエルサレムに家を建てて、そこに住むがよい。だが、そこからどこへも出てはならない。2:37 出て、キデロン川を渡ったら、あなたは必ず殺されることを覚悟しておきなさい。あなたの血はあなた自身の頭に帰するのだ。」

 王は父ダビデが語った、もう一人の反逆者シムイを監視下におくことにしました。エルサレムから出たら、死ぬ、ということを告げました。

2:38 シムイは王に言った。「よろしゅうございます。しもべは、王さまのおっしゃるとおりにいたします。」このようにして、シムイは長い間エルサレムに住んだ。2:39 それから、三年たったころ、シムイのふたりの奴隷が、ガテの王マアカの子アキシュのところへ逃げた。シムイに、「あなたの奴隷たちが今、ガテにいる。」という知らせがあったので、2:40 シムイはすぐ、ろばに鞍をつけ、奴隷たちを捜しにガテのアキシュのところへ行った。シムイは行って、奴隷たちをガテから連れ戻して帰って来た。2:41 シムイがエルサレムからガテに行って帰って来たことは、ソロモンに告げられた。2:42 すると、王は人をやって、シムイを呼び出して言った。「私はあなたに、主にかけて誓わせ、『あなたが出て、どこかへ行ったなら、あなたは必ず殺されることをよく承知しておくように。』と言って警告しておいたではないか。すると、あなたは私に、『よろしゅうございます。従います。』と言った。2:43 それなのに、なぜ、主への誓いと、私があなたに命じた命令を守らなかったのか。」2:44 王はまた、シムイに言った。「あなたは自分の心に、あなたが私の父ダビデに対してなしたすべての悪を知っているはずだ。主はあなたの悪をあなたの頭に返されるが、2:45 ソロモン王は祝福され、ダビデの王座は主の前でとこしえまでも堅く立つであろう。」

 シムイは自分の奴隷を追いかけるという理由ですが、それでも、王の命令に従わなかったのですから弁解の余地はありません。

2:46 王はエホヤダの子ベナヤに命じた。彼は出て行って、シムイを打ち取った。こうして、王国はソロモンによって確立した。

 こうして不安定要因、反逆分子が取り除かれ、平和が確立する土台ができました。このアドニヤ、ヨアブ、そしてシムイの死刑という厳しい処置ですが、すべて公正さとあわれみと正義に基づいて行なわれました。

 ところで、ソロモンという名前は、先ほど引用した第一歴代誌の言葉にあるように、ヘブル語で「シェロモ」、平和のシャロームから派生しているものです。ソロモンが王になることによって、これまで戦いが続いていたイスラエルに平和がもたらされます。実際、列王記第一を読み進めますと、イスラエルの国が周囲の諸国と平和を保ち、隆盛を極める話が出てきます。

 
けれども、その平和は正義に裏打ちされたものです。王権に服従している、反抗していたけれども降伏しなければいけませんでした。反抗していれば、ソロモンのように猶予は与えてくれますが、それを続けるのであれば滅ぼされます。そうでなければ、平和は確立されないからです。これはちょうど、まことの平和の君イエス・キリストが再臨されて、地上に神の国を立てられるときに起こることであります。反抗している者は排除され、従順な者たちのみが御国の中に入れられます。猶予はあるのです。神は忍耐深い方であり、ご自分のさばきをすぐに下すことをされず、悔い改めるのを待っておられます。けれども、際限なく、いつまでもさばかれない、ということでは決してないのです。さばきの時は来ます。ですから、今、自分がどうしなければいけないかを決めなければいけないのです。

 終わりの時にも、似たような出来事が起こります。キリストの統治に反対する諸国の軍隊は、みな滅ぼされます。それは諸国がその長である反キリストにくみしたからであり、反キリストの中にいるのですから、自分たちも滅ぼされるのです。私たちは、キリストの王権にしたがっているでしょうか?反抗している心でいるのか、それとも降伏しているのか、考えてみる必要があるでしょう。


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